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東京高等裁判所 昭和24年(わ)467号 判決

上告人 被告人 高橋源一

弁護人 佐藤豊吉

検察官 渡辺要関与

主文

本件上告はこれを棄却する。

理由

弁護人佐藤豊吉の上告趣意は同人作成名義の上告趣意と題する末尾添附の書面記載の通りである。これに対し当裁判所は次の通り判断する。

第一点物価統制令第九条の二の罪は価格等につき不当に高価な額を以て契約し、これを支払い又は受領することによつて成立する罪である。従つて同罪の審理に当つては販売の目的物につき統制価格あるときはこれを明らかにし、又数種の規格があつて、それぞれ価格を異にするときはこれを明らかにし、これと販売代金とを比較し、その価格の不当であるかどうかを検討すべきである。しかし判決においては必ずしもその目的物の規格を掲記し適正価格を判示する必要なく単に目的物を特定しその販売代金を掲記し、その価格の不当である旨を判示すれば足りる(昭和二三年(れ)第一一七号同年一二月二四日最高裁判所判決参照)。原判決を査閲すると本件販売の目的物はシャツ地(ヨット)で、しかもそれが証第二号の品であつたことが証拠説示と相まつて窺われ且つその価格を掲記しその不当価格であることが判示してある。而して右判示事実は判示法条違反の罪を構成し、その判示として欠くるところがないから原判決が判示事実に対し判示法条を適用したのは正当である。又原審の審理の経過を見ると本件シャツ地には所論のように四種の規格があり、それぞれ公定価格を異にするから此の点に関し審理を尽し本件目的物が一碼金十八円〇三銭のものであることを明らかにしてることが窺われるから審理不尽の違法もない。論旨は理由がない。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

上告趣意書

第一点原判決は本件犯罪の目的物(証第二号証)を以て昭和二十一年九月物価庁告示第四十号麻織物の統制額中の規格品麻シャツ地(ヨット)に該当するものと判示しこれに物価統制令第九条の二第三十四条を適用しているが右物価庁告示のシャツ地(ヨット)は小売業者統制額は一碼当り金十八円〇三銭のもの、金二十一円八十八銭のもの、金二十三円五十七銭のもの、金二十五円八十八銭のものの四種類があり、被告人の行為が物価統制令第九条の二の不当に高価な額を以て取引したものであるか否かを判断するには先づ本件犯罪の目的物が上記小売業者統制額の何れに該当するやを判断して然る後に判定すべきであつて、然らざるに於ては被告人が石田吉松に一碼金参拾四円の割合で売却したことが果して不当に高額の取引であるか否かを判別し難いことである。然るに原判決は此の点を判断せず漫然犯罪の目的物件が麻シャツ地(ヨット)に該当すると判示しただけで物価統制令第九条の二を適用し、被告人に罰金刑を科したのは審理不尽なるのみならず法令の適用を誤つたものと思料する。

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